このたび、ジャパンマックの対談企画「触法依存を考える」がYouTubeライブで配信されました。この対談では、専門家、支援者、そして当事者が、触法依存の現状や回復に向けた支援の在り方について意見を交わしました。本記事では、登壇者の一人である青木知明氏(川崎マック施設長)の発言に焦点を当て、その内容を再構成してお届けします。青木氏は、自身のアルコールおよび薬物依存症の経験を活かし、刑務所を出所した人や依存症に苦しむ当事者への支援活動に尽力しています。
(トップの画像は青木知明・川崎マック施設長)
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薬物、窃盗、性嗜好などの依存症が原因で法に触れる行動に及ぶケースでは、社会復帰を阻む大きな壁に直面します。川崎マック施設長の青木知明氏も、アルコールと薬物依存症を経験し、刑務所出所者としての道を歩みました。現在、その経験を生かし、刑務所出所者や依存症当事者の支援活動に尽力しています。
「僕はアルコールと薬物依存症の当事者であり、刑務所経験者です。触法ということで、僕自身がどういう人間なのかというと、アルコールや薬物に依存し始めたのはかなり早い段階でした」
青木氏は父親は医者、母親は教師という家庭で生まれました。幼少期に父親が不倫を理由に家を出たことで、母親が三人の子供を一人で育てる環境となります。青木氏は三兄弟の真ん中で、幼い頃から家庭の不和に苦しみます。中学進学時、家で偶然発見した離婚調停の資料がきっかけで、家庭の現実を知り、両親への不信感が非行を加速させる要因となりました。
中学時代、青木氏はシンナーやお酒、タバコを知り、不良グループや暴走族に加わります。家庭や学校での孤独感から、地元の暴力団関係者との親密な関係を築き、その影響下で犯罪行為にも巻き込まれるようになりました。幼い頃から学童保育や教会を居場所としてきましたが、そこでも家庭の問題を隠し通す必要があり、常に心の中で葛藤を抱えていました。
青木氏の生活は徐々にエスカレートし、青年期には暴力団に所属し、薬物やアルコールへの依存が深まっていきます。この頃の生活は犯罪や暴力に支配され、幾度か刑務所にも収監されました。
その後、青木氏が回復の重要なきっかけとなるのは、自助グループを頼ったことでした。
「施設につながるまでは、自助グループに頼るしかありませんでした。同じような経験を持つ人たちと関わる中で、自分の道が少しずつ見えてきた気がします。横浜の自助グループで言われたのは、『お前は更生だけやっていればいいんだ』『今、刑務所の中でこれから就職して、更生したいと言ってもできないような、そいつらの希望になるんだと』という言葉です。それが22年間、自分がやってきたことです」
自助グループの活動を刑務所内で行う「第1号」として、青木氏はメッセージ活動に参加する機会を得ました。2004年に「監獄法」が「刑事収容施設法」へと改正されたことで、刑務所経験者が自らの体験を共有し、受刑者の社会復帰への希望を支援する新しい取り組みが可能になりました。この活動を通じて、自ら経験が同じ境遇の人々に希望を与えるきっかけになったと語ります。
全身の入れ墨や指が欠けている外見的ハンディキャップのため、社会復帰が極めて困難だったと振り返ります。しかし、「社会復帰だけが回復ではない」という考えに触れることで、自らの役割を見つけました。
「社会復帰や回復という点では、僕は36歳でつながり始めたものの、45歳までずっと無職でした。全身に入れ墨があり、指も欠けている中で、社会復帰は難しいだろうと思っていました。その頃、坂上薫監督の『ライファーズ』という映画を観ました。それはアメリカで終身刑を受けた受刑者が、自分の精神の自立のために、刑務所に新たに入ってくる仲間たちに希望を与える活動を描いたものでした。それを観て、『社会復帰だけが回復や希望ではない』という考えに触れました。しかし現実的には、社会的な生活はできない状況でした」
刑務所経験者が社会復帰が困難な状況でも、マックやダルクといった場で、仲間たちを支援することで役割を果たしてゆこうと考えたのです。
日本では法務省と厚労省のいかに連携できるかが、触法者が福祉支援や教育、就労支援を受ける際の大きな課題となっています。アメリカでは両省が連携して触法者支援を行う一方、日本ではその多くを民間団体が担っているのが現状です。限られた法務省の予算では再犯防止の取り組みが不十分であり、厚労省との連携強化や支援体制の拡充が必要不可欠だと青木氏は訴えています。
「アメリカでは法務省と厚労省がシームレスに連携して施策を進めています。自助グループ自体は生活や就労の支援を行いませんが、日本では法務省と厚労省の縦割り構造が触法者の支援を難しくしています。障害福祉サービスや就労支援、教育を受けるためのプロセスが必要ですが、それを担うのは民間が大部分です」
青木氏は、マックやダルクが社会復帰が困難な人々の支援を担い、社会に戻るプロセスを支える場であることを強調します。
「今困っている人たちの良い部分を見つけ、それを社会資源として活かしていくことが大切です。厳罰化ではなく、教育や医療を提供することが求められています。それが、この10年で重視されてきた流れです。そして、そのためには、まずそうした支援の場を作ることが必要です」
特に触法者支援において、これら民間の更生保護施設は、再犯防止や社会とのつながりを支える重要な役割を担っています。しかし、施設の数が限られているため、より多くの支援施設の設立と支援体制の拡充が急務であるとしています。このような取り組みが、触法者に新たな希望と再出発の機会を提供すると語ります。
そして、「日本の更生保護施設やマック、ダルクがこの50年間で築いてきたものがあるという自負はあります」と誇りを見せました。
現在、全国では年間2万人もの刑務所出所者がいる一方で、支援施設の収容能力は著しく不足しています。青木氏は、24時間支援が可能な入居施設「バーブホーム」のような施設を充実させることで、出所者への支援を広げる必要性を強調しています。
青木氏が語る触法依存症の回復支援をめぐる現状と課題は、関係省庁の連携や民間団体の活動の重要性も改めて浮き彫りにしています。そして、多くの人々に支援の手を差し伸べるため、社会全体で考える必要があるでしょう。
(文・広報K.K)
依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)からの回復を目指している方は、どなたでも利用できます。
1日3回のミーティングを基本としたプログラムを行っています。
利用料は無料ですが、レクリエーション費や行事参加費、交通費は自己負担となります。