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就労はゴールではない 依存症回復を支える家族の3つの注意点

依存症からの回復において、「仕事に就くこと」はゴールではありません。また、家族や職場の「良かれと思った手助け」が、結果的に本人の回復を遅らせてしまうこともあります。本記事では、ジャパンマック『依存症者家族教室モデルテキストⅠ』などをもとに依存症という病気の正しい理解から、就労支援の核心、そして家族や周囲が陥りやすい「3つの注意点」とその対策まで、社会復帰を支えるための「鉄則」をわかりやすく解説します。

就労は「ゴール」ではなく「回復のプロセス」

 依存症からの回復において、仕事に就くことは大きな節目ですが、それが最終的なゴール(recovered)ではありません。真の回復とは、物質や行為を単にやめている状態ではなく、新しい生き方を継続していく「recovering(回復し続けるプロセス)」そのもの。就労支援の核心 就労は回復の「上がり」ではない。それまでの生き方のパターンを変え、健康的な生活を維持し続けるための「継続的なプロセス」の一部です。

 就労を急ぐあまり回復の基盤が崩れては本末転倒です。周囲は、本人が「今日一日」という考え方を大切にしながら、社会の中でバランスを保つための支援を心がける必要があります。

なぜ「これまでの常識」が通用しないのか

 依存症は、「わかっちゃいるけど、やめられない」という言葉に象徴されるように、本人の意志や道徳心の問題ではなく、精神依存と身体依存を伴う「脳の病気」です。

 依存症は、主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。

  •  物質嗜癖: アルコール、薬物(違法薬物、処方薬、市販薬など)
  • プロセス嗜癖: ギャンブル、買い物、万引き、仕事など
  •  人間関係嗜癖: 共依存、恋愛依存など

 この疾患は、「Bio-Psycho-Social(生物・心理・社会的)」な要因が複雑に絡み合っています。 専門的な見地から補足すれば、脳の機能不全という「生物学的(Bio)」な障害があるため、本人の「心理的(Psycho)」な意志力だけではコントロールが不可能です。したがって、職場や家族という「社会的(Social)」なサポートが、回復初期の不安定な脳を補完するものとしての役割を果たすことが不可欠なのです。

家族が守るべき「3つの注意点」

 家族が良かれと思って行う「手助け」が、結果的に本人の回復を遅らせる「イネイブリング(支え手)」となってしまうことがあります。以下の3点を意識してください。

① 専門機関への信頼と役割分担

 本人の回復の主導権は本人と専門機関(リハビリ施設や自助グループ)に任せましょう。家族が治療者や監督者の役割まで背負い込むと、共依存関係が強まり、双方が疲弊します。「愛情を持って手を離す(Detaching with love)」ことが、専門的な支援を機能させる鍵となります。

② 「早すぎる復帰」と「有頂天(ピンクの雲)」の罠

 断酒・断薬直後、本人が「もう大丈夫だ」と過剰な自信を見せることがあります。これは回復者仲間の間で「ピンクの雲(有頂天)」と呼ばれる非常に危うい状態です。この時期の傲慢さや過信は、専門家のアドバイスを無視させ、結果として再発(スリップ)を招きます。臨床的には、この「有頂天」の裏側に潜むストレス脆弱性を正しく評価し、拙速な職場復帰を避ける慎重さが求められます。

③ 家族自身のリカバリー

 家族もまた、依存症者に振り回される中で「とらわれ」や「巻き込まれ」による不全感を抱えています。家族自身が共依存から解放され、自分の人生を楽しむために、断酒会やアラノンといった相互支援グループへ参加し、自身の回復に取り組んでください。

【表】家族の対応:やってはいけないこと・望ましい支援

項目 やってはいけない対応
(イネイブリング)
望ましい支援
(回復の促進)
問題への責任 借金の肩代わりや失態の後始末をする 本人に問題の責任(結果)を引き受けさせる
コミュニケーション 小言、非難、感情的なコントロール 自分の気持ちを「私」を主語にして正直に伝える
監視と干渉 本人の行動を常にチェックし、先回りする 境界線(バウンダリー)を保ち、見守る
自身の生活 本人を優先し、自分の楽しみを犠牲にする 家族自身の生活を立て直し、活動を楽しむ

参考文献

特定非営利活動法人ジャパンマック『依存症者家族教室モデルテキストⅠ』(独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業)、2014年
特定非営利活動法人ジャパンマック『依存症者家族支援プログラム担当者 全国研修事業報告書』、2012年