依存症の臨床現場では、「性依存症」という言葉を耳にすることがあります。しかし、「性依存症」は正式な診断名ではなく、WHO(世界保健機関)が作成する国際的な疾病分類であるICD-11にも、この名称は記載されていません。では、私たちが臨床現場で用いている「性依存症」とは、いったい何を意味するのでしょうか。
「性依存症」という言葉をICD-11に照らして考えると、少なくとも「パラフィリア症群」と「強迫的性行動症」という異なる疾患概念が混同されている可能性があります。なお、ICD-10では、パラフィリア症群に相当する概念が「性嗜好の障害」、強迫的性行動症に最も近い概念が「過剰性欲」として位置づけられています。
そして、興味深いことに、これらはいずれも、ギャンブル行動症やゲーム行動症などが含まれる「嗜癖行動症群」には分類されていません。そのため、「性依存症」という言葉をそのまま医学的な診断名として扱うことには注意が必要です。実際、臨床現場では、「適切な診断名を用いるべきではないか」と指摘されることもあるでしょう。もちろん、「性依存症」という言葉が、性に関する行動上の問題を社会に広く知ってもらうための分かりやすい表現として一定の役割を果たしている可能性はあります。しかし、私たち援助職者が、その言葉の分かりやすさゆえに、異なる疾患概念を一括して「依存症」と捉えてしまってはいないでしょうか。
そこで以下では、ICD-11を参考に、「パラフィリア症群」と「強迫的性行動症」について簡潔に整理します。少しでも興味を持たれた方は、ぜひ関連する専門書や文献にも目を通し、それぞれの概念について理解を深めてみてください。
パラフィリア(偏った性嗜好)とは、一般的ではない特定の対象や状況に対して、強い性的興奮や欲求を抱くことです。例えば、子ども、他者を覗き見ること、他者に自分の性器を見せること、使用済みの下着などに性的興奮を感じることがあります。
これらの嗜好によって本人に強い苦痛や生活上の支障が生じたり、同意を得ない性的行為などによって他者に危害を及ぼしたりする場合には、パラフィリア症群に該当することがあります。一方、本人や他者に問題が生じていない場合には、必ずしも障害とはみなされません。
強迫的性行動症は、反復する性的な衝動や行動を自分でコントロールすることが難しくなり、その結果として、生活や対人関係、仕事などに重大な支障が生じる状態です。例えば、性的な相手を繰り返し探す、頻繁に性的関係を持つ、ポルノグラフィーの使用やマスターベーションを繰り返すなど、さまざまな形で現れることがあります。こうした行動は、男性だけでなく女性にもみられます。
女性では、出会い系サイトやSNSなどを通じて性的な相手を繰り返し探したり、頻繁に性的関係を持ったりする形で現れることがあります。また、本人が「恋愛依存」や「ホスト依存」と認識している問題の中に、強迫的な性的行動が関係している場合もあります。ただし、これらの行動や問題がみられるだけで、強迫的性行動症と診断されるわけではありません。
行動を繰り返す中で、苦痛や虚しさ、寂しさなどを感じながらも、やめようと試みても自分でコントロールすることが難しくなり、結果として生活や対人関係などに重大な支障が生じることがあります。
著者プロフィール
オルランド ヤコポ(カウンセリングスペースやどりぎ)
公認心理師/臨床心理士/心理劇技能士
看護師養成の専門学校で非常勤講師として「精神障害・発達障害の理解」「精神障害・発達障害とのコミュニケーション」をキーワードとした授業を担当。心の相談員として小学校の教育現場にも携わった経験を持つ。多言語(イタリア語・スペイン語・英語)の非常勤講師経験もあり、外国人へのカウンセリングにも対応可能。趣味は散歩や読書、映画鑑賞、美術鑑賞など。
