「回復とは単純にアルコールや薬物をやめることではない」。共感、回復、スピリチュアル、魔法の薬、仲間、自尊心……。6つのキーワードを手がかりに、回復への道筋を描く岡田代表のコラムです。
前回▶必要な力がないこと、それが問題だった アルコール依存症者の葛藤/岡田代表コラム
(写真はイメージ:みのわマックの様子)
「アルコホリズムからの解決法を見つけ、自分のことがしっかりとわかっている、かつても問題ある酒飲みたちは、何時間もたたないうちに別のアルコホーリクの全面的信頼を得ることができる。成功の手がかりがつかめる。共感がなければ何をしても無駄なのである」(BB.P28L4)
ビッグブックの第2章に書いてある。アルコールの問題を解決したかつての大酒のみである自助グループのメンバーは、解決の糸口を求めて苦しんでいるアルコール依存症者の信頼を、誰よりも早く得ることができ効果的な回復支援につなげられるという内容である。
マックでも自助グループでも同じだと思う。扉を開けて飛び込んできた新しい仲間は、その雰囲気に癒される。共感をして希望が持てるようになる。自分もそうだった。
あるダルクのメンバーが「薬物依存症者は濁った水の中でないと回復しない」と話されていた。とても分かりやすい。依存症者が整った良い環境で素晴らしいスタッフによるプログラムをうけても、回復した仲間との接点がなければ効果的な回復は無い。依存症で現在は回復しているメンバーと昔の話をしたり、感情を共有したり、回復プロセスの話を聞くことが回復につながる。
ちなみに、回復とは単純にアルコールや薬物をやめることではない。やめることは始まりで、回復とは依存症で覆い隠されていた壊れている人間性の回復や成長だ。12ステッププログラムはスピリチュアルなこととして説明している。
私は父親がアルコール依存症の家庭に育った、母方の祖父も依存症だった。依存症の世代間伝播だ。不安なことばかりの多い子供時代だった。母親はとてもヒステリックで、母親にはいつも怯えていた。幼稚園の時に鬼の面をかぶった母親の絵を描いた。夜中に突然大声で父親のことを怒鳴り始め、ケンカが始まり、しばらくするとおさまる。翌日は何事もなかったかのように一日が始まる。そんなことが繰り返されていた。
母は日中は黙々と自営業に勤しんでいた。母とは会話が無かった。夢中になって遊んでいるときは感じなかったのだが、この漠然とした不安からどうしたら開放されるのだろうと考えていた。中学生の頃から、いつも一人だと感じるようになった。両親から振り向かれない、母親から優しくされない痛みだった。
依存症の家庭にありがちな分断された親子関係だった。自分の何かが、そうさせているように感じていた。寝つきが悪くなった。なぜか眠れない夜は母親の死について考えていた。不安や自己嫌悪の感情でいっぱいだった。
あるとき、お酒を飲んで不安が払しょくされた。天にも昇る気持ちになる魔法の薬との出会いだった。よく寝られたことがすごく嬉しかった。すぐに毎晩飲むようになった。アルコール依存症に突き進んでいた。
お酒と出会ってから13年目の年末、連続飲酒からまったくお酒が止まらなくなり、1989年の12月に高尾の駒木野病院に入院した。固いうんこが出た。嬉しかった。身体は回復していった。翌春に退院し、マックや自助グループとの出会いからお酒は、やめ始めた。回復が始まりだった。
「今日一日」「一杯の酒」「無力」「ミーティングに通っていれば飲まないでいられる」「12ステップ」などなど--自助グループの当事者文化は衝撃的だった。
飲みすぎに問題があると思っていたし、意志の力でアルコールの問題は解決しなければいけないと思っていた。自分にはその能力が備わっていると思っていた。実際は無力だった。出来なかった。共感から受容が生まれていった。「お酒がやめられない自分」「涼しい顔をしているが、本当は生きづらくてもがいている自分」「自尊心がはぐくまれていない自分」「人間性が壊れていた自分」を受け入れることができた。人間性=スピリチュアルな回復が始まった。
12ステッププログラムの12番目は「これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、この話をアルコホーリックに伝え、また自分のあらゆることに実践するようになった」と書かれていて、苦しんでいる依存症者への手助けがうたわれている。
冒頭に書いた共感の循環である。ジャパンマックや自助グループ、12ステップグループ、回復した依存症者によって生命が救われたメンバーが自分たちより後からコミュニティに来た依存症の手助けをしていく循環である。ダイナミックだと思う。
私も例にもれずに自助グループや回復施設で自分の回復スキルを使って仲間の手助けをしている。12ステップを実践しながら回復の循環の一員として働いていたら、自分の過去の経験が現在の自分の働きに役立っていることに気づくようになった。自分の社会での役割を自覚した。尊厳を取り戻すことができた。自分自身が好きになるようになった。自分の将来の方向性が見えてきた。疑いを持つことがなくなってきた。自分自身で大丈夫と思った。
アルコールなどの依存症は、自分の意思とは関係なく依存が形成される病気です。習慣的な要因によるもので、誰にでも陥るリスクがあります。 1978年に設立されたジャパンマックは、日本で初めて12ステッププログラムを導入した依存症支援施設であり、依存症に苦しむ多くの人々の回復をサポートしています。長年の経験をもとに依存しない生活を送れるよう支援し、社会復帰を目指すためのプログラムを提供しています。
依存症に関するご相談は、ジャパンマックのウェブサイトの問い合わせフォームやお電話にて承っております。依存症でお悩みの方やご家族の方は、どうぞお気軽にご連絡ください。
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